銀に輝くサーモン、磨かれるパイオニア精神

20145

壊滅的被害を受けた気仙沼で、震災直後から市民の熱い思いを背に、造り続けていた酒があります。男山本店の「蒼天伝(そうてんでん)」は、やわらかく飲みやすい日本酒です。その名前や酒造りには、「気仙沼と生きる」酒に込められた深い思いがありました。

飲み口すっきり。海や青空をイメージ
 味わいはやわらかく、飲み口スッキリ。
 青い空(蒼天)をイメージできる酒が、男山本店の上級酒「蒼天伝(そうてんでん)」です。「ミネラル感があって、香りはメロンのようにさわやか」と菅原昭彦社長は説明します。「味が口の中にからまり、しかし飲んだ後に余韻は残らず、パッとキレのある味」と表現するのが、杜氏の柏大輔さんです。
 こうした「すっきり感」は、港町・気仙沼の青い海や大空を想起します。柏さんは「すっきりした飲み口は、気仙沼の豊かな魚にあいますよ」とアピールします。

男山本店

気仙沼らしい、米と水と酒作り
 蒼天伝は、大量生産ができない「限定酒」です。造り方の秘訣は「小さく仕込む」ことです。
 日本酒は、良質な米と、水と、微生物の力で醗酵を進めます。蒼天伝は米を洗う段階からこだわります。「高品質な酒を造るには精米の割合を高めますが、米が小さくなると、機械では割れやすくなるので、手で優しく洗うこともあります。10キロ単位で水につけて、水を吸う割合もきっちり量ります」と柏さん。また、発酵させるタンクは比較的小型です。「細やかな温度管理をするのに優れている」といいます。
 最後の貯蔵の段階でも妥協しません。酒は低温殺菌の「火入れ」を行いますが、蒼天伝は瓶の中に酒を入れたまま、湯煎で65度に上げる方法で火入れします。そして冷蔵庫で貯蔵します。「こうすることで、搾られたお酒が本来持っている良い香りや味わいを、そのまま瓶の中に閉じ込めることができます」。
 米と水と東北の気候も、「スッキリ酒」を生みだしています。
 蒼天伝は「地米酒」です。市内でもきれいな水と豊かな自然を有する山間部の田んぼで育てた、「蔵の華」と呼ばれる、少し粒が大きくやわらかい米を使います。水は軟水で、硬水に比べて発酵しにくのですが、「やわらかい味に仕上がる」といいます。

男山本店

 また酒作りは、寒い季節の、特に早朝に始まります。低温でゆっくりと醗酵させる日本酒造りには、東北の寒い冬の早朝が最適なのです。「気温5度以下が理想です。寒い気温で育てると、すっきりした味に仕上がる」といいます。

市民の後押しで、「気仙沼の希望」を出荷
 気仙沼には大きな津波が押し寄せ、死者は1000人を超えました。男山本店も例外ではなく、1932年建造で国の文化財だった木造三階建て本社が崩壊しました。建物上部だけが残った写真は、広く全国に知られることになりました。  やや高台にあった酒蔵は、難を逃れました。門まで津波は押し寄せましたが、危機一髪だったのです。

男山本店

 当時、蒼天伝のタンク2本の中には、発酵中の「もろみ」がありました。電気や水道もままならない状況では、「もう捨てるしかない。今後も造れるのだろうか」と不安が広がったといいます。
「酒を造って出荷すべきだ」
 男山本店の背中を後押ししたのは、地元の皆さんでした。港に集約していた水産加工会社など製造業は壊滅状態。「震災直後、気仙沼の製造業で稼動できたのは、ほぼ男山本店だけ」といいます。タンクに残る、蒼天伝1600本分の出荷は、「気仙沼の希望」だったのです。
 「酒を搾るのに必要な電源は、地元の建設会社が、工事用発電機を無償で貸し出してくれました。電気工事屋が配線を組み立て、電気は復活しました。また、洗い物をする水は、自宅の井戸水を自前の発電機でくみ上げて提供してくれる方がいて、その水をトラックで運び続け、何とか蒼天伝を出荷することができました」と当時の状況を振り返ります。
 震災直後の3月は、インフラがマヒしていました。「気仙沼の様子が全国で放映されていたものの、私たちはテレビでその様子を見ることはできませんでした。通信インフラが回復してインターネットを利用できたとき、激励メッセージと注文メールが殺到していたことがわかったのです」。
 こうして全国の人とつながった「蒼天伝」は、特別なブランドになったのです。

男山本店

つながりを大事にした酒
 男山本店にとって、「おいしいお酒」とはどのようなものでしょうか。
 柏さんは「酒の質だけではない」と考えます。「酒の名前や外観の大切さはもちろんですが、男山本店がどのような蔵であるか、私達造り手が何を思って酒を造り続けているかを、飲んでいただくお客様にご理解いただけるように情報発信していくことが大切だと考えます。お酒を通して気仙沼のことや、私達の思いを感じて頂くことが本当の『おいしい酒』に繋がっていくと思っています」と語ります。
 「蒼天伝 特別純米酒」は今年5月、最高権威に評価されるワイン・コンペティション「インターナショナルワインチャレンジ2014」の日本酒部門で、「金メダル」を獲得するなど高い品質を誇ります。
 加えて、本当の地酒を造るため、農家と市民と一緒に、田植えや稲刈りを楽しむサポーター制度の実践や、お酒を気仙沼の海に沈めて熟成を楽しむ「海中貯蔵」という企画も実施しています。

男山本店

(2013年5月の田植えの様子)

 男山本店が約10年前につくり上げた蒼天伝は特別な価値を持ちましたが、「強く販路を拡大したい」とは思っていないとのことです。「震災後のつながりは大事にしたいと思いますが、顔のみえる範囲での販売を続けたい」と、あくまで気仙沼に根づいた広がりを目指します。
 「蒼天伝」や伝統的な銘酒「男山」を飲みながら、気仙沼の豊かな食材を何度でも想起する。そのような「気仙沼のいま」を発信する酒造りに、日々磨きをかけています。